第1章 新たな物語
なんとなくだけどこの人の言いたいことは分かった。
宿敵同士だったけどそれなりにお互いのことを認めていたのかもしれない。
だから人斬り時代の緋村さんと今の緋村さんの変わりように、不安定な緋村さんに苛立ちが隠せないんだ。
だけど緋村さんにも譲れない想いがあるのは事実。
流浪人としての決意が固いからこそ斎藤さんの言葉は届かない。
「……お前がなんと言おうとそれでも拙者はもう人を殺めるつもりはござらん」
「そうか」
緋村さんの確固たる決意に斎藤さんは刀を構える。
「お前の全てを否定してやる」
緋村さんは一歩足を前に出した。
斎藤さんの決闘を受け入れたのだ。
私は思わず彼の前に立った。
なぜそうしたのかわからない。
緋村さんが私の名前を呼ぶ。
握りしめた手が震えているのがわかる。
怖い。
何が怖いのかはわからない。
だけどこのまま緋村さんがいなくなってしまうような、そんな気がする。
そんな私を見て緋村さんは優しく笑う。
「大丈夫でござるよ、殿」
『……』
「どのみちあいつは拙者の命を狙っている。闘いは避けられないでござる」
私は唇をかみしめた。
私にこの人は止められない。
本当は決闘なんてしてほしくないのに。
悔しくて涙が零れそうになる。
薫さんが私のことを心配して壁際まで移動させてくれた。
そして二人の闘いが始まった。
初めに仕掛けたのは斎藤さん。
"平刺突"という、右手を前に突出し、刀を持つ左手を後ろに引いて刃を地面に水平に構えた状態で猛烈な速度で突進して突きかかる技で彼は攻撃をする。
それを緋村さんは空中へと避ける。
しかし、斎藤さんはそれを許さない。
対空で先ほどの技で攻撃をした。
刃先が緋村さんの身体を貫く。
床に叩きつけられた緋村さんの胸部から大量の血が流れ出る。
闘い、というより死闘に近い二人の決戦は続くが明らかに緋村さんの方が消耗が激しい。
斎藤さんの強さは思った以上で。
壁まで吹き飛ばされた緋村さんをかばうように私は斎藤さんの前に立つ。
「どけ、小娘」
『もういいでしょう。決着はついたはずです』
「戯言を抜かすな。邪魔だ」
『どきません』
「ならお前ごと殺すまでだ」
死ぬのなんて怖くない。
私は一度死んでいるのだ。
私は腰に差していた短剣に手をかける。
と、その時肩に緋村さんの手が置かれた。