第3章 決断
翌朝、目を覚ますと大阪の港が見えた。
心臓が早く脈打つ。
緊張しているのがわかる。
「討伐隊が京都に着くまでにまだ時間がかかるのか」
港には何人かの警官がいて斎藤さんになにか耳打ちをし、斎藤さんはそう呟いた。
ちらりと私を見る斎藤さん。
「いい機会だ。志々雄真実がどういう奴か知っておくといい」
そう言って斎藤さんは私の腕を引っ張り、馬車に乗せる。
「今から新月村に向かえ」
短く場所を告げると馭者は走り出す。
新月村。
聞いたことのない村だ。
そんなことを思っていると斎藤さんは言った。
新月村は沼津宿から少し離れたところにある村で、人口20人足らずの山合いの小さな半林、半農の村落でほんの2年前まではなんの変哲もない村だったという。
「だった……?」
「2年前、志々雄の部下がその村にやってきたんだ」
煙草に火をつけて煙を深く吸い込む斎藤さん。
何度か煙を吸い込んでは吐くと言う動作を繰り返した後、再び話しはじめた。
真っ先に駐在していた警官を殺して村を占領し、新たに派遣された警官も来るたびに殺し続けた結果、2年もしたら警官は誰もその村に来なくなり、志々雄真実の配下が次々にやってきたという。
そして新月村は政府に見捨てられた。
「そんなことがあっていいんですか?だって一般人を護るのが警察の役目なはずじゃ……」
「警官も一人の人間だ。自分の命くらい惜しいんだろ」
その言葉に私は何も言えなくなった。
確かに警察と言えど、中身は同じ一人の人間で、自分の命は大事だ。
他人の命を犠牲にしてでも自分を護るのはきっと当たり前で、それを非難することは私にはできないことを知っている。
「だが、そう言う人間はこの先何もできない人間だろうがな」
短くなった煙草の火を消して私の方を見た。
鋭い眼差しになぜだか私は「お前はそんな人間になるな」と言われているような気がした。
もしかしたら私の思い上がりで違うかもしれないけれど、だけど私はそう受け取った。