第3章 決断
「全く……。今から横浜に行けば朝一番の大阪行きの船に間に合う。金ことなら気にするな。政府の方で船代くらい出してやる」
斎藤さんは言った。
本当は緋村さんのために政府がお金を出したらしいが、緋村さんは歩いて京都へ行くと言ったらしい。
そのため、お金が余ったようでそのお金を私に当ててくれると斎藤さんは言ってくれた。
お金が無かった私はその言葉に甘えることにした。
一緒に斎藤さんと横浜まで歩く道、いろんなことを聞かれた。
どうやら斎藤さんは私がこの時代の人間ではないことは初めからわかっていたらしい。
やはり警察の人間なだけあって調べればすぐにわかることだと言った。
だからといって彼が私の過去を聞いてくることはなくて、それが少し嬉しかった。
「その傷、ずっと気になっていたがやられたのは志々雄一派の誰かか?」
しばらく無言で歩いていると、突然斎藤さんがそう聞いてきた。
斎藤さんってどうしてこうも勘がいいんだろう。
幕末を潜り抜けた人って全員勘がいいものなんだろうか。
隠してもきっとばれるだろうし私は頷いた。
そして大久保さんが殺される前に会っていたことも話した。
すると、斎藤さんはこの日初めて表情を変えた。
「顔を、見たのか?」
「はい。男の子でした。この傷はその人につけられて……」
「狙われる可能性は無きにしも非ずという訳か」
手を顎に添える姿は何かを考えているようで、何となくだけど私は何を考えているかが分かったような気がした。
きっと私を餌として使うつもりなのだろう。
志々雄一派をおびき出すための。
今まで表に顔を出さず、暗殺をしてきた一派の一人が顔を一般人に顔を見られたとしたらそいつを殺すだろう。
しかしその人が生きているとしたら再び姿を現してその人を殺すだろう。
私だったらそうする。
斎藤さんはそれを言わない。
知らない方が幸せな場合もあるだろうから私は何も知らないフリをした。