第20章 未来への扉
秋。
前撮りをした。
当日には着ない衣装を着て、
アルバム用に、外に撮影に出掛ける。
撮影でよく使う
近くの場所だけじゃなく、
ちょっと無理をお願いして、
俺達が出会った音駒高校の前と、
よく学校帰りに通った道、
それと、紅葉のきれいな公園でも
撮影を頼んだ。
…あの紅葉狩りデートは、
忘れられない思い出だから。
プロフィールビデオの作製も、
プロに依頼した。
写真って不思議だ。
見た瞬間に、
それまで全く忘れていた記憶が
よみがえることがある。
子供の頃、
家の中で撮った何気ないシーンや
今はもう他界した祖父母に抱っこされた
写真を選びながら、
夏希は何回か、涙ぐんでいた。
俺も、
音駒の頃のアルバムを開いたときは
グッときたけど。
本当に…バレーをしててよかった、って。
一ヶ月前には
披露宴の進行もほぼ、決まった。
『もりすけ、あれ、やりたい。』
『あれ?』
『キャンドルの。』
『あぁ、エンジェルブレス?』
『早瀬ちゃん、どう思う?』
『いいよ~っ、
じゃあ、ちょうど静かな雰囲気になるから
家族への手紙の前はどうかな…』
進行表に新たに
"エンジェルブレス"と書き込みながら、
何気なく早瀬が口を開く。
『なんでやりたいの?何か、思い出?』
ヤバイ。
『うん、もりすけがね、それでプロポ…』
『だーーーーーっっっっ!言うなっっ!』
『なんで?いいじゃん?
だって私、感動したんだもん。』
『こっ恥ずかしいじゃねーか!』
『ふーん、夜久君、
エンジェルブレスでプロポーズしたんだ。
…"天使じゃなくて俺が願いを叶えるよ、
結婚しよう"的な?』
『すごーい、早瀬ちゃん、その通り!
なんでわかったの?!』
『ベタベタやわ(笑)』
『…うっ(撃沈)…
ぜ、絶対、ほかのヤツラに言うなよ…』
式の時に使うリングピローは
先に結婚した夏希のお姉さんが
使ったものを借りることにして
式の退場の時に
フラワーシャワーと一緒にまく
リボンシャワーは、
夏希とお姉さんとお母さんが、
3人で集まって作ってた。
隣の部屋から響いてくる
三人の笑い声を聞きながら、
俺は夏希のお父さんと
じんわり話ながら酒を酌み交わし…
…こうして、準備は、整った。