第18章 誓いの言葉
小富士ホテルの割烹。
あの営業部長と並んで、
向かいに座る取引先の男性に
お酒を注いだり
話の相槌をうったりして
もうそろそろ二時間たつ。
私は今までこういう席に
同席したことがないから、
これが普通なのかどうか
よくわからないんだけど…
仕事の話はほとんど、出ない。
ゴルフの話とか、
最近話題のグラビアアイドルの話とか
選挙の話とか…私には退屈な話ばかり。
京治さんに関するような話や
会社のこともほとんど話題にならず、
『やっぱり来なければよかった…』と
後悔し始めた頃、
取引先の相手…50歳くらいの、
太ってギトギトしたおじさん…が
部長に言った。
『今夜はここに泊まれるそうで。』
『ええ、もちろんです。
眺めのいいお部屋を準備しておきました。
小春君、チェックインして、
お部屋にご案内して差し上げて。』
『…私が、ですか?』
『そうだよ、もちろん。
大事なお客様だ。粗相のないように。』
わかってるだろ?
とでも言いたげな表情は
ただのいやらしいオヤジだ。
…なんとまぁ、ベタな展開!?
このまま部屋まで行ったら
そのまま乱暴されて、
写真でもとられて、
それをネタに、
京治さんと
別れさせる…
とかっていうパターンに違いない。
馬鹿馬鹿しいけど、
ここで子供じみた抵抗をするのも
どうかという感じだし…
フロントまで同行して
なんとか逃げよう。
そう決意して、席を立つ。
『どうぞ、今夜はごゆっくり。』
頭を下げる営業部長。
下をむいた顔は、きっと"してやったり"と
ニヤニヤしてるに違いない。
…絶対に、なんとかして、逃げる。
こんな手口にひっかかるほど
甘ちゃんじゃない。
逃げるタイミングをキャッチ出来るように
全神経を駆使して前を見る。
割烹の出入り口からほんの少し行くと
ホテルのフロントと玄関は
すぐにつながってる。
人もたくさんいるし、
玄関前には、タクシーも数台いる。
行くなら、あっち。
うん、
チェックイン手続きまでしたら
走って逃げよう、そう思って
バッグを握りしめた時、だった。