第1章 賑やかな本丸
「ここにも居ない!ったく、あいつどこ行ったんだよ…」
加州は、主を探しながら廊下を小走りに辺りをきょろきょろしている。
そして、あまりにも急いでいたので、ちょうど角を曲がってきた、安定に気づかず、思いっきりぶつかって二人とも尻餅をついてしまった。
その上、安定が今取り込んできた所であろう洗濯物は、辺りに散乱してしまう始末だ。
「わあっ!二人とも、大丈夫?」
後ろを同じく洗濯物を持って歩いていた堀川が、慌てて二人に近寄った。
「いててて…どこ見て歩いてるんだよ!お前のせいで乾いたとこの洗濯物が散らばったじゃないか!」
お尻を痛そうにさすりながら、案の定、安定が加州を睨んで喧嘩腰だ。
「そっちこそ、そんなに山ほどの洗濯物一度に持つとか、可愛くないよねぇ。」
それに対して、同じくお尻をさすり、着衣を整えると加州はふんと鼻を鳴らし、安定を睨んで挑発ぎみに返した。
「もお、二人とも!落ち着いて!加州は何か急いでいたんじゃないの?」
せっかく綺麗に乾いた洗濯物の上で喧嘩をされてはかなわないと、小柄な体を生かして堀川が持っていた洗濯物ごと間に無理やり入り込んだ。
その一言で急いでいた理由を思い出し、加州はあ、と声を上げた。
「春香知らない?政府からの使いの者が来て、書簡を預かったんだけど!」
少し前のめりになりながら聞いてくるので、
「主さんなら、向こうで三日月さん達とお茶をしてたよ。」
と堀川が勢いに押されながら、今歩いてきた廊下を振り返って答えた。
それを聞いた加州はため息交じりにまたかと少し苛立ちを見せ、服の裾を軽く払うと、お礼を言って足早にそちらへ向かっていった。
「ちょ、落とした洗濯物くらい拾うの手伝ってよね!」
安定が散らばった洗濯物を拾いながら何か言ったようだが、前しか見えていない加州には聞こえていない。
「僕も拾うの手伝うから。ね。」
と、堀川が苦笑いをしながら洗濯物を拾い始めたので、安定は諦めた様にため息をついて洗濯物を再び拾い始めた。