第11章 菅原先輩。
「………」
黙ってしまった私の頭に、先輩の優しい手の感触がした。
そしてもう一方の手で私の手を取り、掌に何かを乗せてくる。
掌を確認すると、そこには金色に鈍く光る先輩の第二ボタンがあった。
「学校で俺に会えない間はさ、これを俺だと思って。…なんちゃって。」
そう言っておどける先輩は、何だか可愛かった。
思わず笑ってしまう。
「そう、その笑顔。俺、菜月の笑った顔が大好きだよ。」
笑顔の申し子みたいな先輩に笑顔を褒められるなんて何だか恥ずかしくなってしまうけど、私は素直に嬉しかった。
先輩は、私の頭を撫でていた手を背中に移動させ、自分に引き寄せた。
私は、先輩の腕にすっぽり収まる。
「本当に、俺を選んでくれてありがとう。ずっと…大切にするからな。」
先輩の腕の中で、私は幸せをかみしめる。
一年前の春に先輩と出会い、今年の春には先輩後輩としての私達はお別れになる。
けれど、これから先、何回も先輩と迎えるであろうこの季節。
私にとっては忘れられない、春の匂い。
そんな私の大切な、春が始まるーーー