第8章 春への道
やけに素直に聞き入れた影山くんは、あっという間にいつものお気に入りらしいTシャツに着替えて戻ってきた。
そして、私の腕を引く。
「行くぞ。」
「え?」
「お前も来いっつってんだよ。俺一人より女子がいたほうが怪しまれねえだろ。」
「そ、そうかなあ…」
そう思いながらも、何となく影山くんに一人で行かせることを不安に感じた私は彼についていくことにした。
「…ねえ、何でそのTシャツにしたの?」
影山くんのお気に入りのTシャツは、「セッター魂」とでかでかと書かれたものだった。
こんなの、バレー部ですと看板をさげて歩いているようなものじゃないか。
「お前がTシャツにしろって言ったんだろ。」
「いや、言ったけどさあー…何もそれじゃなくても。」
「うるせえな、気に入ってんだからいいだろ!」
さっきはあんなに変装していたくせに。
本当に見つかりたくないのか私にはよく分からなくなってきた。
でも、やっぱりあのTシャツお気に入りなんだ。
それが分かって何だか影山くんを可愛く思った。