第3章 合宿
体育館は既に鍵が開いていたけれど、誰もいなかった。
体温計を脇にはさみ、壁に背中を預けてへたり込む。
立っているのが辛い。
あ、本格的にやばいかも…
体温計を挟んだ方とは逆の腕で、目の上を覆って光を遮る。
体温計の計測終了の電子音が鳴るまでに、ふと思う。
影山くんに移ってないといいな。
何せ、ただ一緒にいただけではなく、唇を触れ合わせてしまったのだ。
他の人より明らかに移る確率が高そうだ。
今日、練習試合なのに。
明日からも、練習ずっとあるのに。
影山くんが熱出したりしたら、どうしよう。
影山くんとどう接するかをさっきまで考えていたのに、今度は彼の心配で頭が一杯になった。
その思考を一旦、電子音が遮る。
体温計を取り出して確認すれば、38.7℃。
もうこれはだめだ。
完全にアウトだ。
武田先生に言わなくちゃ…
そう思い、フラフラしながら体育館を出たところで、烏野のメンバーが揃ってこちらへやってきた。
「あー!おはよう菜月!とうとう今日、練習試合だな!」
日向くんがキラキラ笑顔で言う。
かろうじて笑顔で、そうだね、と返す。
「ちょっと私、武田先生のところ行って来ます…」
皆に移る。
それは嫌だ。
私はそのことで頭がいっぱいで、とにかく早くここを離れたかった。
体育館から少し離れた廊下まで進んだけれど、体のだるさがぐわっと押し寄せてきて、またしゃがみこんでしまう。
情けないな…。
体調の悪さから、心持ちまで弱くなってくる。
行かなきゃ。そう思って立ち上がろうと壁に手をついた。
その時、誰かが後方から走ってこちらに向かってくる足音が聞こえた。
しゃがみこんだまま振り返ると、そこには影山くんがいた。