My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「…わかったよ」
周りの期待の目に耐えられなくなり、渋々とした様子で雪はティムから手袋を受け取った。
犬の真似事などこっ恥ずかしいが、それしか方法がないのなら仕方ない。
手袋に鼻に寄せて嗅いでみれば、ふんわりと香ったのは。
「…プリンの匂い」
今朝方アレンが食してした、デザートのプリン。
「食べ物の匂いってアレンらしいけど…」
「プリンの匂いなんてするの?私にはわからないけど」
「少しだけね」
顔を近付けてきたリナリーに手袋を渡し、すぅと深呼吸。
プリンカラメルの匂いに混じった、どことなく甘く感じるアレン本来の匂い。
その匂いを頭に刻み付けて、雪は空気中の匂いを嗅ぎ取るかのように頭を軽く逸らした。
混じって香る、様々な菓子類の香り。
足場の煉瓦と土の匂いも混じって、その中からアレンを辿るのは難しそうに思えた。
それでも言った手前、やれることはやらねば。
少し胸焼けしそうな周りの甘さに眉を寄せつつ、すんすんと嗅ぎ続ける。
「………」
「………」
「………」
「………大丈夫?雪」
「んー…うん…」
曖昧な返事をしつつ振り返らない雪を、リナリーを始め全員が見守る。
こと、5分。
「見ろ、やっぱり無駄だろ」
「無駄だなんて、そんなこと言っちゃ駄目よ神田くん」
「そうだぞ、雪が必死に捜してくれてるんだ」
「あれの何処が必死───」
「あっ」
なんだ、と神田の言葉が続く前に。
ピンと耳と尾を立てた雪が反応を示した。
ぱちりと開いた金瞳は、迷いなく人混みの中を見つめている。
「あっち」
「あ、雪っ」
タッと足早に駆け出す雪の目には、透明な道筋でも見えているかのよう。
人混みの中をすいすいと進む雪を、金色のゴーレムがすぐさま追い掛けた。