My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「ぅっ」
ぎち、と鎖が引っ張られる。
予想外のことに無防備だった所為か、唐突な引力につい雪の口から息が漏れた。
そんな雪に構わず、母親に抱かれた男児が声を大に主張したことは。
「ママ!わんわん、ほしーっ」
「え?」
「はい?」
「…あ?」
三人三様。
誰もが予想し得なかったこと。
「わんわん、ほしい!」
「んん、と。ダニー、この人はわんちゃんじゃないのよ。そういう仮装をしてるだけで…」
「やだー!わんわんほしい!ほしい!」
「そ、それならパパに頼んで、本物のわんちゃんを飼ってもらいましょう?」
「やーだー!わんわんがいい!」
どうやら雪のことを、飼い犬として強く所望しているらしい。
ぶんぶんと首を横に振り、しっかりと小さな手は鎖を掴んで離さない。
「ぅ、ちょ、待っ」
ぐいぐいと鎖を引かれ、少し息苦しそうに雪が辿々しい声を漏らす。
必死に母親があやすものの、再び喚く男児の耳には入っていない。
「だから人は飼えないのよ。わんちゃんじゃないのっ」
「わんわんだもん!わんわんー!」
「く、苦し…っ」
「ああ!ごめんなさいね!こらダニー!放しなさいっ!」
「やーだー!」
わぁわぁと騒ぎが大きくなる中、前のめりになりながらもどうにか首輪を手で押さえていた雪の耳に。
「チッ」
届いた音。
それは大変よろしくない雰囲気を纏った舌打ちだった。