第18章 xxx ending √3:TETSURO
「お、じゃあカオリも学校いくか」
「うーん……それもいいかもね」
「研磨と同じとこなら安心だしな」
ガラス製のメイソンジャー。
手のひらサイズのそれにパイ生地を敷きつめる。冷ましたリンゴをいれて、紐状にしたパイで蓋をする。
研磨と同じ学校、か。
彼となら楽しい学校生活が送れるかな。淡い期待を抱く。思い起こされるのは凄惨な十代。虐められ、蔑まれ、疎まれつづけた遠い日のおはなし。
今でもよく覚えてる。
他人の、あの、目を。
汚いモノを見るような目で、私を見る、あの視線を。
私は、汚いの?
どうして?
貧乏、だから?
皆と同じように綺麗な服を着ていないから。新しい筆箱を持っていないから。靴がボロボロだから。父親が、いないから。母親が、男と酒に溺れてるから。
すべてを憎んだ。何を憎めばいいか分からなかった。誰も信じられなかった。いつも、いつも、ひとりぼっちだった。
「…………カオリ?」
フッ、と過去の残像が消えた。
意識が現実に引き戻される。
瞳に映るのは黒尾の顔。心配そうに眉を下げて。私を見る。温度のある暖かい眼差し。
ああ、そうだ。
私は、大丈夫。
だって、──今は、彼がいる。
「大丈夫か? ごめん……俺、学校のこととか、何も考えずに言ったりして」
優しいね。黒尾は優しい。
こみ上げるのは愛しさだ。それは、同時に切なさでもある。彼のキモチに気付いてないワケじゃない。きっと、それは彼も同じだと思う。
好きだよ。あなたが好き。ずっと側にいたい。言ってしまえば、きっと結ばれる恋なのだけれど。
でも、それは出来ないから。
「ごめん……もう、平気」
「でも、」
「あ!そろそろ研磨たち来る!」
深入りしないように。させないように。線を引いて。こうやって微妙な距離を保とうとしてる。
ごめんね。ありがとう。
何度もそう心で呟いて。