第18章 xxx ending √3:TETSURO
季節は冬本番。迫りくる聖夜。
町はどこもクリスマスムード一色だし、浮足だった歳末の空気がこの国を覆う。そんな十二月のある日。
私はアップルパイを作っていた。
今夜は研磨と蛍くんが訪ねてくるのだ。ついでに、光太郎も。
くつくつと音を立てるお鍋。
ほこほこと立ちのぼる湯気。
たっぷりのお砂糖とバターで煮たリンゴが、綺麗な金色になって輝いている。あとはレモン汁とカルダモンパウダーを少々。
これで下ごしらえは完璧だ。
「おー……すげえうまそう」
「黒尾甘いの好きじゃないじゃん」
「得意じゃないだけ。これは別」
お約束の体勢でパイ生地を伸ばす。
背後から伸びてきた大きな手がリンゴをつまみ食いして「熱っ」と舌先を出した。猫舌のくせに冷まさずに食べるからだ。まったく。
「勉強教えるんだっけ?」
「そう。研磨と、ついでに蛍も」
「ふうん……私も習おうかな」
皆で集まって宅飲みクリパ!
なんて、そんなものは存在しない。
今日彼らが訪ねてくるのは【勉強会】の為だった。光太郎は遊びにくるだけだけど。
研磨は海浜地区に引越してから不登校。蛍くんは芸能活動の関係で勉強が遅れがち。私は貧乏で高校に入学すらできなかった。
それぞれ高校生と呼ばれる年齢は過ぎてしまったけど、研磨と蛍くんは通信制の学校に通ってる。
そんな彼らの家庭教師代わりとして、白羽の矢が立ったのが、黒尾だった。