第18章 xxx ending √3:TETSURO
黒尾のことが好きだ。
優しい彼が好き。口悪いし、顔は怖いし、いつもケンカしてばかりだけど、本当は優しい彼のことが、好き。
いつでも私を気遣ってくれて、心配してくれて、寄り添ってくれる彼のことが、大好きだ。
強引にこの家に住まわせたのは、私をあの町から遠ざけるため。心のケアを勧めたのは、私のこれからの人生を考えてくれてるから。
ホットラテは甘めのバニラ味。私の好きな味。何も言わずに買っておいてくれたハンドクリーム。水仕事で手が荒れたこと、気付いてくれてた。
女性向けのパッケージ。
フルーツの香りがする。
洗剤買うのも忘れて、これを買ってくれたんだ。どんな顔して買ったんだろ。
ハンドケア商品の女性向けコーナーで悩む黒尾の姿が浮かんで、ふふ、と笑みがこぼれた。
(こんなに好き、……なのにね)
彼を想えば想うほど、苦しい。
あの町で起こったこと。消えない記憶。また、誰かを好きになるなんて。私にはその資格がないから。
この恋に素直になれなかった。
この想いが、いつか、黒尾にとって重荷になってしまいそうな気がして。だってそうでしょ。黒尾には、きっと、もっと素敵な恋が待ってる。
普通に出会った女性と、普通に恋をして、普通の幸せを手に入れるの。心優しい彼にはハッピーエンドがよく似合う。そう思う。
だから、言わない。
絶対に、言えない。
この想いに何重にも鍵をかけて、私は、今日も憎まれ口を叩くんだ。