第17章 xxx ending √2:KEIJI
騒がしい町の雑踏をすり抜けて、息を弾ませて、走る。流れる景色。響くのは足音。彼と同じ道を、走る。
駅前通りの賑やかさ。
路地裏の汚れた町角。
すべてから逃げるようにして飛び込んだのは、昔ながらのラブホテルだった。
一泊7,900円で買える小さな部屋。
不義も、密通も、すべてを包み隠してくれる愛の流刑地。二人だけの時間がそこにはある。
「風呂、一緒に入ろう」
「ふ、おふ、……え!?」
「服脱いで、ほら早く」
今日の京治さん、ちょっと強引。
いや、普段からだいぶ強引だけど、なんていうか。いつもと違うのだ。いつもはもっと、余裕たっぷりで、温度のない喋り方をする人なのだけれど。
今日は、そう、空元気のような。
言いようのない違和感を覚える。
訝るような視線で彼を見つめて、でも、と思い直した。私が京治さんのことを、知らなすぎただけ。そうなのかもしれない。
「見て、カオリ、すごい泡」
バスタブに大量の泡風呂を作る京治さん。振り向いて、私の名を呼んで、無邪気に笑う。
これが本当の彼。
そうなのかもね。
「お背中、お流ししましょうか」
あまり気にしないようにしよう。そう、こころに決めてバスルームに足を踏みいれる。
湯気に紛れて漂うシャボン玉。
それはふわふわと。
上昇と下降を繰り返して、やがて、パチン。音を立てて弾けて消えた。