第15章 extra xxx 003
時速40kmで流れていく景色。
研磨や蛍くんが暮らす海浜地区の夜景も、日本一高い電波塔も、雄大な海も。すべてが見渡せるアクアライン。ゆっくりとした速度で走るバイク。
黒尾の腰に回した腕が、右頬に密着する彼の背中が、なんだか気恥ずかしい。
別人と一緒にいるみたいだ。
『ふうん、ああ、そう』
すべてを聞いた彼はそう言って、それ以上、何も言おうとはしなかった。
きつく抱き締めてくれてた。
ずっと背を撫でてくれてた。
道行くカップルや、犬の散歩をする近隣住民。誰に見られても気にせず、動じず、私の話が終わるまで聞いててくれた。
『黒尾って本当はお巡りさんだったんだね。いまやっと初めて知りました』
『本当もなにも最初から警察官デス』
時速40kmで流れていく景色。
前を行くテールランプの赤。対向車が照らす白。遠くに見える摩天楼の虹色。どれもこれも綺麗。
ちょっとだけ、息をするのが楽になった気がする。
「ねえ、黒尾!」
「あァ? なんだよ!」
「どこ向かってるの!」
「いいところ!」
エンジンの重低音に負けないように、大声でする会話。いいところってどこ!ラブホ!最低かクソお巡り!間に受けんなよガキ!
本日二回目の前言撤回。
やっぱり黒尾は黒尾だ。下品だし粗暴だし口が悪い。でも、ずっとそんな黒尾でいてほしいと思った。
本人には、絶対言わない。