第13章 extra xxx 001
「昔々、あるところに、ひとりぼっちの可哀想な少年が暮らしておりました」
紡ぐのはとある昔話。
イタリア製のカウチソファに腰を下ろしたまま、視線は虚空を彷徨って、ただぼんやりと。言葉を吐き出していく。
「その少年はとても貧しく、いのちも危うい状態で、とある町を彷徨っていました。そこへ現れたのは黒いスーツを纏ったヒーロー。少年は、彼のおかげで、奇跡的に一命をとりとめたのです」
「おい……やめろ、及川」
怒りと悲哀がないまぜになったような岩ちゃんの声。震えてる。もしかしたら、呆れも混ざってるのかもしれない。
でも、俺はやめようとしない。
絶対にやめてなんかやらない。
どう思われようと、これで、最後だし。どうせ終わるなら嫌われて終わったほうが楽だから。
「しかし、ある日のこと、悪い魔女がヒーローに魔法をかけました。それはそれは、醜く恐ろしい、」
「お前……いい加減に」
「恋の魔法を」
「……──トオル!!!」
反転する世界。軋む背骨。
身体を襲う痛みに気付いたときには、もう、ソファから引き摺り下ろされたあとだった。