第13章 extra xxx 001
結局、指五本分の金額で手を打って、俺は別のホテルへと向かった。天童の仕事の腕は確かだし、まあ、今回もうまくやってくれるだろう。
あとは待つだけだ。
おもむろに腕時計を確認する。
もうすぐ四時。この季節だし、窓の外はまだまだ真っ暗。夜景が反射して雲が赤く光ってる。
見慣れた都会の空。
何度も見上げた空。
「このままずっと夜ならいいのにね。朝なんかさ、来なけりゃいいんだ……朝日ってほら、眩しくてさ、……嫌いだし」
ぽつり、ぽつり
独りごちた言葉はただ広いだけの部屋に消えていく。誰もいない。誰にも届かない。ああ、俺、今ひとりぼっちだ。
『ひとりにしないでっ……!』
全身の毛が逆立った気がした。
一番思い出したくない記憶。過去の記憶。こころの奥底にしまっておいたはずの痛みが、カメラのフラッシュのように、断片的に再生される。
やめろ。やめてくれ。せっかく忘れてたのに。もう二度と、思い出したくなんかないのに。
「…………ひとりにしないで」
ひどく震えた声だった。
そりゃあもう、自分でもおかしくなっちゃうくらい。か細くて。弱々しくて。
自分で自分を抱き締める。
痛い。爪の食いこんだ上腕が、ひとりぼっちの心が、痛いよ。