第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
窓辺ににじり寄る飛段をぐんと引いて、牡蠣殻は噛み殺し続けた溜め息を吐き出した。
「五と四を占める他の組合の現状について如何ほどご存知でいらっしゃいますか」
「元気で儲けてんじゃねぇですか?」
牡蠣殻は無言で要を見詰めた。ぼんやりした牡蠣殻にしては強い目線だ。明らかな苛立ちが見て取れる。
「元気で儲けてるから、うちが困ってんでさ」
そんな牡蠣殻に微塵も気付く風もなく、要は痛めた手を見下ろして忌々しげに続けた。
「思うに」
卓に肘を着いてこめかみを抑えた牡蠣殻が、溜息混じりにぼつりと低い声を出す。
「あちら様があまり振るわなくともここの態勢に大差ないのではないでしょうか」
「牡蠣殻ぁ、腹減ってきたわ。飯はまだかよぉ?」
能天気に腹を掻いて隣にどっかと腰を下ろした飛段に牡蠣殻は笑顔を向けた。したくもない話の腰を折られた面倒くささに、眉間へ深い皺が刻まれた苛立ちにみちた笑みだ。
「働かざる者食うべからずです。遊んでばかりで出納係兼あなたのお守り役の角都さんに引っぱたかれても知りませんよ」
「バァカ。角都に引っぱたかれようが蹴っ飛ばされようが食わなきゃ働けねぇだろォがよ。まずァ燃料入れんのが先だァ」
「走らない車に給油はしません」
「タンクが空の車なんか走んねぇぞ。アホか、おめぇは」
「至極ご最もですがイライラするのは何故でしょう」
「腹が減ってんだろ?腹減るとイライラするからな」
「いや…何かもう…もう帰りたいなあ…」
「お?帰るか?俺ァ構わねぇぞ?折角だから何日かのんびり逗留してから帰ろうぜ!オメエがいいってんなら裸の付き合いってのもやぶさかじゃねえそ、俺は。大丈夫、我慢出来らァ」
「…ぶっ飛ばすぞコノヤロウ…」
「げはははは!いいじゃんいいじゃん、かかって来いよ!揉んでやるぜ、牡蠣殻ァ!」
「揉まれるならあなたより按摩さんに揉まれたいですよ。折角の湯治場なんですから…」
牡蠣殻が五、六歳はいっきに老けたような顔付きで依頼主を振り向いた。
「本当に私たちに依頼するおつもりですか」