第13章 敗北の慰め
「シホっ…シホ!」
何度も私を悲痛な声で呼ぶ影山。
自分のしていた事に今になって気づいたのがよくわかる慌てて悲しげな声だった。
酷くしていいって言ったこと、受け入れるつもりが泣きわめいていること。
弱くてごめん…、私が言ったのにごめん……。
今は泣かせて。
影山のせいで泣かされたっていう当てつけになってしまってることは充分わかってた。
それでも私は胸の内にある苦しい思いを主張したくて泣いてしまった。
やってることが矛盾してる……。
すぐ謝るから。
お願い、許して……。
「シホっ……」
泣き続ける私の肩に影山がぎこち無く指先を触れさせると、チクリと痛みが襲った。
……影山に噛まれたところ。
痛みがあるってことは、血が出てるかもしれない。
髪の毛を項のところに避けさせて、噛まれたところがより露わになる。
「俺が、これを……」
震えるか細い声で言うと、影山の体は目の前の事実に怯えて小刻みに震え出した。
ハッと思い出したように影山は、私の顔をそっと上を向かせて覗き込む。
久しぶりに目が合った影山の顔が今にも泣き出しそうに歪められて、情けなく悲痛な思いを訴えていた。
私に噛み付いていたことだけじゃなくて、無理やり口の中を犯したことも認識したみたいだった。
私が泣き止むよりも先に影山の頬にも涙が伝って、どんどんと溢れ出す。
呆然とするその目が、影山が本心であの行為をしてたわけじゃないってわからせてくれる。
本当は最初からわかってた。
影山が本心で酷いことするはずなんてないって、ちゃんと知ってたんだ。
それでもどうしても耐えきれないくらい苦しくて、本心じゃないからって私が苦しかったことは消えないことをわかってほしかった。
だから止まらない涙を当てつけみたいに影山に見せてしまった。
ごめん…ごめんなさい……。
「シホっ…俺……、お前に……ッ」
違う……影山を泣かせたかったわけじゃない。
顔を覆う影山の片手の隙間から、あまりにツラそうに歪んで涙を流す顔が覗く。
その表情に胸がキツく締め付けられたみたいに痛んだ。