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互(銀魂:桂夢)

第1章 互




終戦から十年の月日が過ぎ、奇妙にも桂は美穂と対峙している。それは偶然の再会とは程遠く、どちらかと言えば美穂の方から仕組まれた対面であった。

久々に見る戦友は、いつしか危うい少女の雰囲気を脱ぎ払い、美しい女性の空気を身に纏っていた。それだけならば手放しに喜んでいたかもしれない。けれど、彼女は大人の空気の他に、宿敵の証である黒い隊服をも身に纏っていた。

「女子として生きたかったのではなかったのか?」

「それは小太郎の勝手な思い込みよ」

怒りがこみ上げる。誰よりも幸せな生活を送れるよう願っていた人物は、自分の願いとは裏腹に自分を狩る側の人間になっていた。噂で耳にはしていたが、真選組に入隊した女隊士と言うのが、かつて水杯を交わした者だったのは衝撃的である。しかも、相手は自分の誘いを断った上で幕府についていた。自然と桂の口からは彼女を攻める言葉が発せられる。

「お前ほどの腕を持ちながら、幕府の狗なんぞに成り下がりおって。俺の誘いに乗らなかったのも、そちら側に付きたかったからか?」

棘のある発言は、攘夷志士達の隠れ蓑として使われていた廃墟によく響く。

真選組の奇襲により、他の攘夷浪士達は既にこの場所を撤収している。逃げる彼らの後をつけるように、真選組もまた、廃墟から姿を消したはずだ。しかし、それはあくまでリーダーである桂を庇う作戦にしか過ぎない。誰もいなくなったと真選組に思わせておいて廃墟を無人にし、少し前の攘夷活動で足を痛めた桂の安全な逃亡ルートを与える。それが最優先事項だったのだが、それも廃墟に残っていた一人の隊士の出現により遂行はされなかった。

そして桂からすれば突然の再会は、決して喜べるものではない。衝動的に美穂へ罵倒を浴びせたくなるのは、致し方ない心境だろう。だが、静かに桂の言葉を受け入れる彼女を見ると、二人を包む沈黙に戒められている気になる。何故なら、美穂が理由なく愚かな決断をくだすような女でない事は、桂が一番よく知っているからだ。埃っぽい光が差し込む中、彼は時と共に冷静になる。
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