第1章 待ち遠しいその日
頭の痛みを押さえながら、ごめんごめんと軽く謝り、京はまた地面に座り込んだ銀時の隣に腰を下ろした。しばらくはお互いに何も話しかけず、ただ朝の静寂の中で各々の思いに耽っていた。
そうする中で京は土方の顔を思い出す。いつでも威厳を保つあの男が泣いたのだ。誤摩化すための言い訳は苦し紛れだったが、それでも泣かずにはいられなかったのだろう。思えば治療室の前に集まっていた他の男共も涙をこらえていた。そこまで親しくもない大の男でも泣いたというのに、不思議と悲しい気持ちすら胸に宿らない自分に、京はいつしか疑問を抱いた。
そして冒頭に戻り、銀時に問う。
「泣けないのよ、どうしても。こんな仕事してるからかな。自分の死も、周りの人間の死も始めから受け入れてる。皆いつかはいなくなるって分かってるし、ミツバの場合、病気の苦しみから解放される事もあって逆に嬉しいのよね。」
「そーかい。」
けれど本来、「死」と言うものはこんなにも穏やかに受け入れるものなのだろうか。隊士が死ぬのは職業上、覚悟している。だから仲間が死んでも涙を流さないものも多い。ただ「お疲れ様」と敬意を表して見送るだけだ。けれどミツバはそれらに当てはまらない。普通に生き、普通に笑い、普通に幸せになって欲しかった人物だ。そんな人が居なくなれば無償に悲しむのが普通ではないのだろうか。無償に苦しくなるものなのではないのだろうか。