第1章 待ち遠しいその日
「でもさ、あんな馬鹿でも信念は曲げないんだ。素直じゃないから口には出せないみたいだけど、心に一度決めた事はやり通すヤツだよ。アイツは。あ、知ってるか。」
一時間も語り続けた愚痴も、十分な時間を与えれば方向が変わる。やはり、どんなに気に喰わない事があろうとも人には必ず長所があり、京はそれを言わずにはいられないのだ。ミツバが心の底から惚れた男なら尚更である。
「ねえ、ミツバ。アンタは幸せ者だね。好いた男に想われて。女として羨ましいよ。」
本当に羨ましい。
京は別に結婚願望が強い訳ではないし、真選組に身を置く以上、色恋沙汰はどちらかと言えば避けている。隊士の中にも所帯を持ってる者は数多くいるが、それが出来るのは彼らが男だからだ。女の身である京が結婚すれば引退は確実。若い子達からおばさんと呼ばれてもおかしくはない年齢ではあるが、まだまだ刀を捨てる気はない。たとえ結婚して真選組にいられても、あの局長と副長の事だ。恐らく彼女は事務行きだろう。その上に子供を授かれば産休を貰わなければならない。そんな事をすれば仕事に復帰する事は不可能。子育てで忙しくなるのはもちろんだが、何よりも他の企業とは違って真選組は警察。常に新しい敵を探し、常に攘夷浪士を追い、常に人々の平和を護っている。その作業の中には、おいそれと引き継ぎが出来ない情報も多い。故に、一度でも職を離れれば終わりである。そんな事を京はまだしたくなかった。
けれどそれを踏まえた上でミツバが羨ましいのも事実だ。この世の中に、一体どれだけの男が惚れた女の為に命を張れるだろう。しかも妻でも恋人でもない女の為に、だ。