第9章 ラブラドライトの叡智
『オイ』
脳内に悪魔の声が響く。
『オマエはまだ完全に死んだわけじゃねぇだろ。それにコイツは、オマエに向かって話してんだよ。目を見てやれよ』
悪魔の忠告に、いつの間にか視線を逸らし、アレスの無垢な愛情に怯えていたルヴァイドは掠れた声で呟いた。
『俺は…アレスに不釣り合いな男だ』
人を斬る剣を持つ手は、取り返しのつかない程に汚れてしまった。レルムの村人たちの断末魔が脳裏に響く。
『それでも俺は…お前が好きだ』
手を伸ばしても、自分の身体であってそうでない肉体ではアレスに届かない。触れたいのに触れられない。なんと歯痒いことか。
『俺はアレスが好きだ。アレスの全てが欲しい』
「ケッ、反吐がでそうだぜ」
人間共の情愛に挟まれて、バルレルは忌々しそうに呟いた。
『──死にたくない』
ぴったりと傍により、支えるようにして歩くアレスを見下ろして、ルヴァイドはそう強く思ったのだった。
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