第7章 クリソプレーズの囁き
+++
雨も上がった夜半過ぎ。
寝静まっていた黒の旅団の設営地が一瞬にしてざわめいたのは、周辺の警戒にあたっていたゼルフィルドが思いもよらない人物を連れ帰っての事だった。
「アレスじゃないか!?」
火の番をしていたイオスが、ゼルフィルドの腕の中でぐったりとしているアレスに驚愕の声を上げた。
「どうしてアレスがここに…聖女と行動しているはずじゃ…、いやそれよりもアレスは大丈夫なのか!?」
呼吸は浅く、顔色も酷く悪い。
全身泥水に浸かったかのように汚れて、衣服の所々が引き裂かれ──これではまるで……
「話ハ後ダ、いおす。マズ将ノ所ニ連レテ行ク」
着替えと、医療班の者を呼んでルヴァイドのテントまで来いというゼルフィルドの指示に、イオスは早急に従った。
「将、ヨロシイカ?」
ゼルフィルドの体躯では天井につかえてしまう為、テントの外からルヴァイドに声を掛ける。
「どうした、ゼルフィル…」
数秒してから顔を出したルヴァイドが、声さえ上げなかったたもののイオスと同じように目を丸くしてかの人物を見つめた。