第6章 アイオライトの涙
怖いオオカミが出ても知らねぇぞぉ…と下ひた笑いを溢す山賊に、心底から嫌気がさす。
何でこの雨の中、濡れるのも気にせず山を彷徨いているのか。山賊とはそんなに暇なのか。
ともかく、自分の不運を呪うしかないとアレスは傘を深くし項垂れた。
隠した口元で、小さく召喚術の詠唱を開始する。
「若い女だ、高く売れるぞ」
「その前に、俺たちが味見してやろうぜ?」
ゲヘゲへと鼻息荒く山賊がにじり寄ってきた。
「もっと顔を見せてくれや」
伸びてきた腕で、傘をはね除けられる。
アレスはその隙を逃さず、召喚術の発動と共に杖を男に突き出した。
「く…っ、こいつ召喚士か!?」
膝をついて地に伏した男は失神し、もう一人は驚愕に後ずさる。
「私は今機嫌が悪いの。逃げた方が身のためよ?」