第4章 それは「子供」と「大人」の「狭間」で歌った日
「で、話ってなんだよ」
「まぁたそんな口のきき方して。本当はわかっているんでしょ」
なんでも見通したような口ぶり。
こいつに心理戦では勝てない。
「ちゃんもバカだよね。こんな男とまた付き合って」
「何が言いたいんだよ」
ニヤリ、と笑って及川は俺を見る。
「ちゃんのこと好き?」
思ってもみなかった質問。
俺は一瞬戸惑ったが「ああ」と答えた。
興味なさそうに「ふーん」と及川は言う。
その態度が腹立たしい。
何が言いたい。
「無かったことにしたいんじゃないの?」
「は?」
「彼女のことが好きだって気が付いて、でもそれを無かったことにして。でも彼女と再会して付き合ったのは、その無かったことを無かったことにしたかったからじゃないの?」
及川の言葉は俺の心臓に真っ直ぐに飛んできた。
俺は唇を噛みしめる。
何も言えなかった。
「何も言わないってことは、そう言うことだろう。相変わらずだね」
及川はそれだけを言って、家を出て行った。
俺は拳を握りしめる。
掌に爪が食い込んだが、それ以上に悔しかった。
反論できなかったこと。
及川の言うとおりだということ。
あの頃と何一つ変わっていない自分の性分。
全てがムカついて悔しくてやるせない気持ちが溢れてきた。
俺はいつだって俺のことしか考えていない。
償いだとか言って、また彼女を利用した。
彼女に許してもらってなかったことにしたかった。
それで安心したかった。
あの頃の思い出を忘れたかっただけなんだ。
………本当、最低な男だよ。