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砂時計【菅原孝支】

第3章 それは「憧憬」と「嫉妬」と「傍観」し過ごした日



「え、なに!?お前ら聞いてたの?」
「なんか面白そうな話するんじゃないかと思って外でずっと聞き耳立ててた!!」

と明るく言うのは、梟谷の主将、木兎。
マジかよ……。
なんで俺の最悪な過去を知られなきゃいけないんだ。

「それにしても顔に似合わずに、女の子にひどいことするのな」

音駒の主将、黒尾の言葉に胸が抉れる。

「その、及川?っていう人の言う通り、忘れるのは狡いですよ」

赤葦は、椅子をひっぱてきて大地の隣に座る。
年下に説教されてるよ、俺。

「逃げてたって何も変わらないと思いますけどね」
「デスヨネー……」
「でも今更そのさんって子に謝ってもただ傷つけるだけですからね」

それもわかっている。
わかっているが、じゃあ俺はどうすればいい。
謝ることもできない。
かといって及川からあいつを奪い取ることもできない。
俺のこの気持ちは、どうすればいい……。

その時、気が付いた。
が抱いていた感情は、こんな感じだったのではないだろうか。
今まで散々傷つけただの、泣かせただのと思ってきたが、きっとそれは上辺だけで、本当の傷みには気が付かなかった。

本当に俺っていう奴は痛みに鈍感だ。
あの時の俺にとって彼女は「好き」でも「嫌い」でもなかった。
ただそばに居るだけの存在。
俺の寂しさを和らげるためだけにいた存在。
簡単に言えば「無」に等しかった。

もし、いま彼女が抱いている感情が、あの時の俺と同じ感情なのであれば、
なんて恐ろしいのだろうか。
「無」に等しい感情がこんなに怖いだなんて思いもしなかった。
今になって本当に気が付いた。
だけどもう手遅れだ。
その上、俺はこのことを無かったことにしようとしていた。
そりゃ「狡い」って言われるはずだ。


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