第3章 それは「憧憬」と「嫉妬」と「傍観」し過ごした日
スタバの席に腰かける、俺と及川。
それぞれ頼んだドリンクを口にして、店内のざわめきをBGMに俺は及川に問う。
「で、話ってなんだよ」
「またまた~。わかってる癖に」
わかってるよ。
わかってなきゃ、お前なんかに着いて行かない。
のことなんだろ。
「あ、その顔はわかってるね。そうだよね。君は飛雄みたいに単細胞の鈍感男じゃないからね。わかるに決まってるよね」
わざとらしい笑顔を顔に張り付けて、その笑顔がすごいムカつく。
もうあいつの話をするのはやめてくれ。
あいつのことは忘れることにしたんだ。
放っておいてくれよ。
「君って人間は本当に狡い人間だよね。見ててイライラするよ」
「それはこっちのセリフだ。今更あいつの話はするな。俺はもうあいつのことを忘れるつもりでいたんだ」
「それが狡いって言ってんだよ」
その声、顔に俺は息をのんだ。
さっきまでのへらへらした顔ではなく、怒りを秘めたその表情に俺は何も言えなくなる。
及川は、カップに入ったコーヒーを一口飲んで、俺を見つめた。
いや、この場合は睨んだと言っても過言ではない。
「君は、何もかも全部忘れて自分の倖せを掴もうとしているわけだ。だけどちゃんはどう?あの子は君との過ごした思い出は忘れないよ。君のこと本当に好きだったからね。なぜ、あの子に傷を負わせた君があの子との思いでを忘れて、なぜ、君に傷を負わせられたあの子が君との思い出を忘れずにいる?普通は逆だろ?」
及川の言葉は正論だった。
だから何も返せなかった。
「君は逃げてばかりいるね、自分の過去から。まぁ、俺に関係のないことだけどさ、それは」
言いたいことをすべて言ったのだろう。
及川は、残ったコーヒーを飲んで、席を立ちあがった。
「そうそう、言い忘れてた。俺、ちゃんと付き合ったから。じゃあね、今度は春高で」
そう言って及川は出て行った。
え、ちょっと待って……。
、及川と付き合ったのか?
あんな男と……。
俺は、しばらくその場を立ちあがることができなかった。
俺の心臓がズキズキと痛む。
その夜、俺はどうやって家に帰ったかを覚えていない。