第2章 それは「昔」の「過ち」と「傷」が作り上げたモノ
次の日の一限目はLHRで、席替えが行われた。
3ヶ月に一回の席替えにクラスの奴らは盛り上がる。
俺もそのうちの一人だった。
氷川の隣の席になりたくて仕方がなかった。
くじを引くまでの時間、ずっと心はソワソワして落ち着きがなかった。
担任が黒板に四角形を机の数ぶん書いて、その中に数字をバラバラに書いていく。
順番にくじを引いていくわけだが、もうそこからは騒ぎっぱなしだ。
「一番前だー!!」
「やった後ろの席だ!!」
「俺の隣お前かよ!よろしく」
そんな声を耳に入れながら、俺もくじを引いた。
数字は"13"
黒板で席を確認すれば、一番前の真ん中だった。
もう、心の中は荒れ果てた。
真ん中はまだしも一番前って……。
あ、でも左右どちらかに氷川が来たら別だな。
そしたら一番前でも勉強頑張れる。
しかしそううまくいくわけがなかった。
氷川は一番後ろの窓際。
すごいいい席だ。
深い溜息を吐いて、俺は諦めて自分の席に机を運ぶことにした。
するとその時、
「菅原君」
が話しかけてきて、彼女のものと思われるくじの紙を渡してきた。
「私のと菅原君の交換しよう。私の春香ちゃんの隣の席だから」
その言葉に少しだけ目を見開いた。
確かめてみると、本当に隣の席だった。
「本当にいいのか?」
「いいよ。協力するって言ったでしょ」
「お前いい奴だな!」
「……ありがとう」
は軽く笑って、そして一番前の席に机を運んで行った。
本当に氷川の隣だ。
やばい、どうしよう。
すげえ嬉しい。
今日の昼休みに何か奢ってやろう。
緩む口元を押さえ、俺は氷川の隣へと机を運んだ。
「あ、隣菅原くんなんだ」
「よ、よろしく」
太陽の様な笑顔が眩しくて、顔が熱い。
でも、照れてるってことを悟られたくなくて、俺も満面の笑みを返した。
この3か月間、天国なんだろうな。
ずっとこの席でいいのに。
席替えなんてもう二度とやらなくていい。
浮足立つ気持ちがこの日一日ずっと続いた。
自分のことでいっぱいいっぱいで、
他人のことなんて考えられなかった。
他人の傷みより自分の傷みの方が重要で、
他人の傷みに気が付くことも、気が付こうともしなかった。
その痛みに気が付くのは、もっともっと音のお話。