第5章 ハイキュー!!/縁下力
その日の放課後。
俺は教室で待つ彼女の声をかけられなかった。
一緒に帰ったらまた彼女は殴られてしまう。
そんなのは嫌だ。
だったら、一緒に帰らない方がいいんじゃ……。
『あ、やっと来た!早く帰ろう!』
ドキン。
心臓が大きく跳ねる。
彼女といつもと同じように肩を並べて歩いた。
雨がしとしとと降っていて、俺は傘を広げる。
笑顔で中に入ってくる。
俺の心はどんよりとしていていつものように会話ができなくて、隣で笑う彼女の顔が苦しい。
ねぇ、。
今の君の心の内はどんな風なの?
泣きたいんじゃないの?
どうして無理して笑おうとするの?
ざわざわとする胸の奥。
いつもより沈黙が耳元で騒ぐ。
今日、君がいじめに遭っているところを見たよ。
そう聞いたら、君はどんな顔をする?
言葉にしたいのに、喉の奥に引っかかって音にならない。
"触れないのが思いやり"
そういう場合もある。
なかなか卑怯な言い訳だ。
彼女の痛みを知るのが怖いだけだ。
なんて、汚いんだろう。俺は。
くるり、と傘を一回だけ回した。
傷ついた君の姿をすぐ近くで見ていた。
それでも君は、笑って俺の隣に立っている。
弱音、吐いちゃいなよ。
大丈夫だよ。
今は梅雨の時期で雨が降っている。
雨か涙かなんてわからないよ。
そう言えたらどれだけよかっただろう。
『バイバイ、またね』
あの時の俺は、まだ子供で大人になりたいと願っていた。
「バイバイ、また明日」
白い歯を見せて、彼女は満面の笑みで、腕がちぎれるんじゃないかってくらい腕を振った。
そして、彼女はいなくなってしまった。
次の日、学校に行ったら担任から「転校した」と聞かされた。
東京のどこからしい。