第1章 銀魂/近藤勲
次の日。
雨は今日も降っていて、店に客は一人もいない。
品出しをしようとしたが、品が減っていないためする必要もない。
暇な時間が続く。
と、その時。
入店の音が鳴り響いた。
『いらっしゃいませ』
お決まりの言葉を吐いて客を見る。
その人はニコニコと笑って真っ直ぐに私の所に来る。
え、何この人。
気持ち悪い。
そう思っていると、カウンターに傘を置いた。
クローバー柄の折りたたみ傘。
こんな柄の傘、うちには置いていない。
不審な目で見ていたら、
「昨日は本当に助かりました」
と、太陽みたいな笑顔でそう言った。
そして昨日私が傘を貸した人だと気が付く。
昨日は隊服だったけど、今日は袴姿だったから気が付かなかった。
でも、この傘私が貸した傘と柄が違う。
私のは、ピンクの水玉模様だ。
「実は、昨日の雨であなたの傘が壊れてしまって、同じ柄の傘を探したんだがなかなか見つからなくてな。本当に申し訳ない」
『いや、こちらこそ新しい傘なんて……。ありがとうございます』
あの傘は、安物だからすぐに壊れるだろうとは思っていたし、
それに私はあの傘をあげたつもりでいて……。
でも返しに来ようとしていたのか。
傘を買うためだけに立ち寄った店にもう一度……。
すごく嬉しくなった。
胸が熱くなってくるような、そんな気がした。
そして昨日のお礼がしたいと言われ、
断るに断れず、バイトが終わる残りの10分店の中で待ってもらった。
この人は義理や人情に厚い人なんだな、そう思いながら私は私服に着替えて、私を待つあの人の所に行った。