第16章 真斗×花魁
「お前、あの豚にクビだって
言われたらしいな……」
自室なのか
少し他の部屋とは違う
落ち着きのある部屋でお互いに向き合って話す。
「はい…」
「お前、ここで働くか?」
「えっ!?」
「やっぱり、この店にも
番犬ってやつが必要なんだ。
今日起こったことは多分
明日には吉原中に広まってる。
あいつを狙ってくるやつも
多くなってくる。
あいつの身も心配だが、
本気であいつのために
金を落としてる男に失礼になるんだよ。
だから、今日みたいなやつを
切れる奴が欲しい。
俺と林檎もいつでも
いられる訳じゃねーからな。」
なるほど、と思った。
確かに、今日の様子をみていて
あんなに弱い主に
歯が立たないのだから、
どこかの
武将なんかが来てしまったら
お仕舞いだ。
その場合は俺も勝てる気はしないが、
番犬がいるというだけでも違うだろう。
俺は
少しためらったが
「…はい。」
と、返事をした。
これも社会勉強だ。
「それと、妹のことなんだが…」
少し、言いづらそうにしてから
龍也さんは
「あいつは、
男に少し恐怖心を抱いてる。
あいつがまだ、遊女になりたての頃は
今みたいに丁重に扱われる身分じゃなくてな、
要するに下っぱだ。
その頃の高尾太夫てのが
なかなか横暴で、
特にあいつを忌み嫌ってた。」
ぽつぽつと語られる
彼女の過去は
思っていたより残酷だった。