第31章 笑顔の行方(茂庭 要)
階段を上がりながら茂庭さんが話してくれる。
茂「小梅は夜、寂しがってよく鳴いていたから俺と一緒に寝てたんだ。飼い主さんが見つかってよかったよ」
茂庭さんが笑いながら部屋の扉を開けると、小梅は耳をぴんとさせ私めがけ走り腕の中に飛び込んできた。
貴「小梅、ゴメンね。よかったね、助けてもらって」
私はしばらく抱きしめていなかった小さく暖かな命に触れると安心しポロポロと涙が出てきてしまった。
そんな私に茂庭さんはそっとハンカチを差し出してくれた。
貴「・・・すみません、気が緩んじゃって・・・」
茂「俺も安心したよ」
茂庭さんはにっこり笑った。
私はその笑顔にドキリとした。男子ってガサツなイメージしかなかったけど、彼はなんていうかホッコリと心が温かい人で思わず和んでしまう雰囲気を持っている。
それにしても前にも見たことあるような・・・。
貴「あ!茂庭さんって男子バレー部の前主将じゃなかったですか?私、試合見に行ったことあります。すごく強くてびっくりしました。私、二口の幼なじみなんです」
茂「へぇ、そうなんだ。でも、主将って言ってもたいしたことはできなかったし、俺らの世代は不作って言われてたから・・・。強い部でいられたのは二口達、後輩のおかげだよ」
私は気どらず自分の努力も他人のおかげと言い、はにかむ茂庭さんに胸が高鳴った。
なんかこんな感覚初めてかも・・・。自分の鼓動が自然と早くなり顔が赤くなる。もっと茂庭さんの事を知りたい・・・。できたら、もっと側に居たい。
思わず茂庭さんの顔をじっと見てしまう。その視線を感じたのか茂庭さんは不思議そうな顔をした。
茂「どうしたの?」
貴「あ!いえ、茂庭さんが面倒見がよくって部員をよくまとめてたから強い部でいられたんですよ!茂庭さんはもっと自信持っていいと思います!!」
私は慌てて感じたことを言った。出会ったばかりの人にこんなこと言ってしまって引かれたらどうしようなんて思っていると、茂庭さんはびっくりしたような顔をし、そして顔を赤くしながら”ありがとう”って言ってくれた。