第30章 lovesickness 3 (月島 蛍)
次の日僕は桜井の病室に訪れていた。
昨日の陽介さんの話では脳に刺激を与えた方が思い出すかもしれないから、できれば会いに来てやってほしいとのことだった。
もちろんそれが桜井の為になるなら、いくらでも会いに行くと心に決めていた。
しかしすべての記憶がない彼女とどう接したらいいかと思うと躊躇し、しばらくドアの前に立ちすくみ僕は深呼吸をしてドアをノックした。
貴「はい、どうぞ」
僕は久しぶりに聞く彼女の声にドキリとしながらも、病室に入る。
月「桜井、久しぶり。僕は月島蛍。君は覚えてないかもしれないけど、同じクラスでバレー部だよ」
貴「・・・月島君?ごめんなさい。私何も覚えてなくて・・・」
桜井は申し訳なさそうに下を向いた。
月「気にしないで欲しい。僕が君の顔を見に来たかっただけだから」
貴「あ、ありがとう」
桜井は顔が赤くなった。何から話そうかと僕が黙っていると桜井が口を開いた。
貴「あの・・・私バレー部のマネやっていたって兄が言ってたんだけど、どんな感じでした?」
桜井はノートとペンを出してメモをしようとしている。幼なじみの篠原さん達の話も書いてあるようだった。きっと彼女なりに思い出そうと必死なんだろうと思うと胸が痛んだ。
僕はバレー部での様子をいろいろ話をし、彼女はそれをノートに書き留めていった。
そういえば、桜井は日中の入院生活は退屈だろうと思いどうしているのか聞いてみた。
貴「えっと、家にある私の本を持ってきてもらって読んだりしてるよ」
月「音楽とかは聞いてないの?」
貴「事故の時にミュージックプレイヤーが壊れたみたいで・・・」
月「じゃ、僕が使わなくなったプレイヤーとCD持ってきてあげるよ。君とは音楽の趣味が合ってたから、きっと気分転換になると思う」
そして僕は使わなくなっていたポータブルCDプレイヤーとCDを差し入れすることを約束し病室を後にした。願わくは僕との事を少しでも思い出してくれないかとの願いを込めて・・・。
それから僕は毎日CDを差し入れに桜井のところに通うようになった。