第30章 lovesickness 3 (月島 蛍)
そして事故から一週間たった今日もまた病室の窓の光を見つめる。そんな僕の視界に入ったのは兎がくっきりと見えるくらいきれいな満月だった。
そういえばこんな満月の夜、桜井は機嫌がよさそうに満月を見ながら無意識に小さな声で歌を歌っていたな。僕は聞こえないフリをして彼女の歌声をこっそりと楽しんでいたっけ。そんな何でもない事が特別な事のように思える。
君の声が聞こえないこの毎日はまるで色あせた別の世界にいるみたいだ・・・。早く僕の名前を呼んで笑ってほしいよ・・・。
大分身体が冷えてきてそろそろ帰ろうかと思った時、陽介さんから電話が鳴った。僕は急いで電話に出る。
月「陽介さん、どうしたんですか?」
陽「蛍・・・、良い話と悪い話があるけど、どっちから聞く?」
月「じゃあ、良い話からお願いします」
陽「つばさの意識が戻って、身体の状態も安定しているから個室に移動して明日から家族以外も面会ができるようになった。で、悪い話の方だが・・・・」
月「何があったんですか?」
陽「・・・記憶喪失の状態だ。事故の衝撃によるものだそうだ。一時的な場合もあれば、一生このままのこともあるらしい」
僕は陽介さんの言葉を聞いて目の前が真っ暗になった。