第30章 lovesickness 3 (月島 蛍)
どれだけそうしていたんだろう。暖かかったロビーも暖房を切ったのか、ずいぶん寒くなってきた。その時後ろからふわりと温かい毛布が掛けられた。
明「蛍、大丈夫か?」
月「兄ちゃん。何で?」
椅子を一つあけて兄貴が座った。
明「陽介から電話を貰った。帰るように言ったけど、終電終わった後にまだお前がここにいたのを見かけたから迎えに来いって」
月「・・・僕、帰るつもりないケド」
明「そういうと思ったよ。とりあえずこれでも食え」
そういって兄貴はコンビニのおにぎりを僕に渡した。
月「こんな時に食欲なんてあるわけないデショ」
明「いいから食って少し寝とけ。お前も疲れてるだろう?陽介から連絡あればすぐに起こしてやるから」
僕はやっぱりひねくれ者だ。こんな時でも兄貴に”ありがとう”の一言も言えないなんて。だけど・・・今は少し心強い。その言葉も言えないけどね。
月「・・・わかった。お休み」
と言っても眠れるはずもなく、そのまま毛布に包まり桜井の無事を祈る事しかできなかった。
そして窓から明るい朝日が差し込んできたとき、パタパタとスリッパの音がし、廊下の奥から陽介さんがロビーに姿を現した。
月「あの・・・桜井は?」
陽「まだ意識がいつ戻るかはわからないんだが、とりあえず峠は越えた。ただしばらくは家族以外は面会謝絶で・・・すまないな」
月「いえ、それだけ聞ければ十分です。ありがとうございました」
明「とりあえず、よかったな」
兄貴が僕の背中をポンと叩く。僕は胸の奥が熱くなり涙がこみ上げてきそうになり、それをぐっと我慢し頭を下げた。生きていてくれてよかった・・・。
明「陽介、ありがとう。また状況変わったら教えてやってくれ」
陽「わかったよ。こちらこそありがとうな」
そして陽介さんに礼を言い、僕は兄貴の車に乗り家に帰った。
家に帰ると両親が心配していた。とりあえず朝練までまだ時間があったから一眠りし、学校へと向かうことにした。
昨日の事故はニュースや新聞でも扱われていたらしいからバレー部のみんなも心配しているはずだ。