第12章 ツキアカリノシタニサクハナ(菅原孝支)
菅「お邪魔します」
貴「はーい、どうぞ」
彼女の部屋の扉を開けた瞬間、ふわりとした甘い香りがする。
人工的なものじゃなく、自然な香り・・・。花?でも部屋の中には観葉植物は置いてない。
菅「・・・香りが」
貴「え?」
菅「あっ、ごめん!花の香りっていうか、なんて言うか・・・」
俺は変なヤツと思われたんじゃないかと焦った。
貴「あぁ、それベランダに置いてある夜香木の香りだよ」
菅「夜香木?」
貴「そう。夜香花とも言って、昼は閉じているいるけど、夜になると花が咲いて強い香りを出す木なの。面白いよね」
菅「見てもいいか?」
俺はベランダに続く窓を開ける。鉢に植えられた夜香木には小さな白い花が咲いていて、夜の闇の中にぼんやりと浮かんで見えた。
貴「こんな地味な花なのに、香り方がすごいよね。香りって好き嫌いあるから・・・。大丈夫な香り?」
菅「平気だべ。むしろ好き・・・」
言ってから俺はハッとした。桜井は顔を赤くしている。
貴「・・・えっと、そろそろ勉強しよっか」
俺「・・・そうだな」
俺たちはまるで何事もなかったかのように、黙々と勉強に打ち込んだ。
家に帰った俺は、ボンヤリと今日の事を思い出していた。
菅(・・・夜香花。・・・なんか桜井みたいだ)
俺は学校と店での彼女の姿を、それに重ねていた。
・・・彼女の部屋の香りが身体に残っているような気がする。
まるで彼女が側にいるような感覚に陥った俺はベッドに潜り込み、そのまま眠りについた。