第10章 一言
乱れた息を整え、病室の前に立つ
心臓が張り裂けそうなほど脈を打っている
走ったせいか、それとも――――――……
扉をノックする
中から声がした
ずっと聞きたかった声
がらり、と開ける
その先に映るの姿
上半身を起こしていて、こちらをみている
『一、くん……』
驚いたような、泣き出しそうな、嬉しそうな、いろんな感情を含んだ表情
俺は彼女のベッドに近づく
お互い数秒見つめた
言いたいことがたくさんあるのに、喉でつっかかる
言葉がでてこない
俺は無言で、彼女を抱きしめた
力強く、そこにの存在があることを確かめるように
すると、俺の背中に腕が回された
『心配、かけてごめんね』
「まったくだ、バカ」
お互いに、体を離し、そして唇を重ねた
何度も何度も重ねた
唇を離し、2人笑った
『……ねえ、見ればわかると思うけど、私脚をね切断したの』
「おう」
『でね、今は平気なんだけど、痛くなるんだ。ここに脚はないのに、すごく痛くなる』
前に医師に聞いた
"幻肢痛"
というらしい
元々存在していた身体の部位が切断された後でも、まるでそれがあるかのように感じられる症状
半年で消える人もいれば10年以上かかる人もいるらしい
少なくともはその苦痛を半年は体験する訳だ
幻肢痛がどれくらい痛いのかはわからないが
ひどい人はその部位にすごい苦痛を感じるらしい
は、幻肢痛がひどい方だ