第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
話を戻すが、何度でも言う、影山飛雄は天才だ。
比類なきバレーのセンスと恵まれた体格を持つ。そのうえ努力も惜しまない。おそろしい人だ。
だから彼がαではない、なんてことはこの世で一番あり得ないことだと思う。
そして同時にわたしはその事実に苦しんでいた。
何故αであるはずのわたしが同じαの影山に惹かれてしまうのか。性というもののおもちゃになるはずのわたしが、どうして影山という人間に惹かれてしまうのか。
だが影山はわたしとは違うのだ。彼はただのαで、可愛らしいあの子が欲しくて、谷地さんが求めればきっと応えるだろう。つがいに、なるだろう。
「――――」
わたしがもし弱くて劣ったΩであれば。
「……ぃ、ぉい」
もしも、もしもそうだったなら。
「……おい!! 時縞緋紗!!しっかりしろ!!!」
「……っあ、……」
弾かれたように見ると、そこにはたった今夢想していた対象がいた。
「影山……」
「お前、さっきからおかしいぞ。変なもんでも食ったのかよ」
くそまじめに心配してくる影山に、嗤った。
お前なんて、とんでもないゲテモノだ。
「そうね。そういえば――」
今日、熱っぽかったの――
「……谷地さん!!!!!!!!」
潔子さんの滅多に聞かない叫び声が、体育館の片隅で不穏に響いた。