第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原
百合でもあり影山の夢小説でもあります許してください
何かがわたしの中で鎌首をもたげた。蛇に似た、ぬるぬると動く欲望だった。それを認識した時にはもう叫んでいる。
「谷地さん今すぐわたしをぶん殴って!!」
「え……あ……」
谷地さんは動かなかった。きっと、動けなかった。
体がいうことを聞かないくらいにお互いの身体が本能に乗っ取られている。
わたしは自分の鋭すぎる痛覚に頼った。思いっきり唇を噛み切って、両腕に血が出るほど爪を立てた。せめてもの抵抗だった。
以降医師に問えば、そんなことをして欲望に抗う人間はお前くらいだ、とのことである。正直嬉しくない。
谷地さんはわたしのことをぶん殴りはしなかったが、その分怯えたように最大の距離を取った。
それから、荒い息と静寂とが交互に通過する不可思議な数十分間を、たった2人きりで過ごした。
保健の教師が慌てて走り込んで来た時に、わたしは気が抜けて気絶したそうだが、これは人づてに聞いた話である。
あんなことがあれば、谷地さんがわたしに怯えるのも無理はない。同性であって同性ではない存在だ。いつ標的にされるか、酷く恐れただろう。
それ以来、クラスでも彼女を怖がらせないためになるべく離れた。席が近くなれば、誰かと変わってもらって。視線も滅多に合わさない。
それで全ては解決したと、わたしは思っていた。