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HQ短編‼︎

第5章 【オメガバース】 月島 影山 菅原


御察しの通り歪すぎる三角関係になります。オメガバースだからできるという感じ。

***

何かすごいことが起きた日ほど、はっきりとは思い出せない。
わたしの第六感、つまり勘は、この日なぜか鈍っていた。体の中心が熱に浮かされたかのようにひどく熱かったのだ。
それは後から思えばただの発情期にあてられた雌(でもあり雄の本能)だったのだが、ただの熱だと思い込んだわたしは、何の疑問も持たずにその日を過ごした。しかし、時間が経つにつれ、からだを苛む熱があがる。
具合でも悪いのかと勘繰り、わたしは生まれて初めて保健室へと向かった。

ここでわたしは重大なミスをしていた。忘れていたのだ。自分のクラスにいるはずの谷地仁花が、朝から姿を見せていないことを。

***

「夏の暑さとはまた違う鬱陶しさだな……」
独り言を言いながら重い身体を引きずる。今にも中心の熱が身体中に回ってしまいそうだ。くらくらする。
「遠いな、保健室」
視界が妙にかげろうに侵食されているような気がしながら、ようやく保健室前の扉まで辿り着く。
だというのに! 保健室のドアには「少し出ています」「入らないように」の貼り紙。余りにも不親切なそれに、わたしはドアの取っ手を乱暴に回した。
ところが、鍵はあっさりと開いた。拍子抜けしたわたしを待っていたのは、

「――谷地さん?」

ぐったりとベッドにもたれかかる同級生のマネージャーだった。もう一度、いぶかしげに「谷地さん」と呼ぶ。ぴくりとも動かない。
それから何度呼んでも、彼女は、起きない。まるで何かにうなされているかのようだった。わたしは、それと同時に、体の周りを取り巻く空気の濃度がぐんっと濃くなっているのを感じていた。
谷地さんに近寄るたびに、体の熱がさっきよりも酷くなる。これは一体、と計り兼ねていると、んん、と掠れた声が聞こえた。

「あ、谷地さん、一体どうして、」

彼女の瞳が薄く開かれる。
焦点を探して黒眼がさまよう。
ふっ、と、それが私の顔を縫い止めた。


あ。


思った時にはもう、全てが終わってしまったと悟っていた。
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