第1章 乙女の姿しばし留めん
仰々しい衣裳に比べて細やかな身体が良彰の腕の中にあった。
吹き抜ける風に混じって、時折騒ぎ立てる人々の声が耳に入ってくる。
「ほら、聞こえてくるでしょう」
腕の中で少女の身体が震えていた。それは見知らぬ少年に近寄られたのとは別の恐怖であるらしかった。
「大丈夫、この西の対は離れていますから」
耳に囁く。身を震わせる彼女が欲望をさらにあおり立てる。
「だから…、もう少し…」
その時だった。
「脂燭の火が几帳に移ったのですって」
甲高い女性の声が聞こえた。西の対に控えている女房のものらしい。
その女房の声が、良彰をふと現実に戻した。
「お許しくださいませ…、このようなことが誰かに見つかれば、あなたさまの身もただでは済みませぬ」
震えながらも、彼女は道理を説いた。
「腕を放せば逃げてしまうのでしょう?」
良彰が言うと、少女は良彰の顔を真正面から見据えて、こう言った。
「天に偽りはございますまい」
その強い視線。
か弱い少女の中に、これほどまでに強さがあったとは。