第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
(良かった……)
これは、○○の本当の気持ちだ。
ナギに、陰陽師である自分以外に心を開く相手ができるのは、喜ばしいことなのだから。
なのに……。
(あっ……)
思わず飛び出しそうになった声を呑み込んだ、そこで○○が偶然見かけたのは、ナギが女性の式神と二人きりで過ごしている様子…だった。
ナギが誰と過ごそうと、そんなことは彼の自由だ。
別にいちいち驚くことではないし…それに……。
つきんっ……。
心の奥で、何かが痛いと感じるなんて、そんなこと……。
(変だよ、こんなの)
陰陽師にしか懐かない式神というのが、そもそも異常だったのだ。
その彼が、こうして周囲に馴染み始めたというのに、胸が痛い気がする…なんて、そんなのは自分勝手な話だ。
今まで自分だけの傍にいすぎた彼だから、それが離れていくのが、何となく淋しいに違いない。
きっとそうだ、と、強引に結論を導いて、○○はそれ以上考えるのをやめた。
考えたって、意味がない。
だから、蓋をする。
これで良かったのだ。
ナギにとっても、この方が良い。
陰陽師の傍にばかりいるよりも、ずっと……。
「うん、そうだよね」
一人納得して、そこから背を向ける○○は、しかしとうに、彼女の気配であれば当然の如く感づいていたナギが切なく見つめていたなんて、知るよしもないまま、その場を去って行った。
「○○……」
常の『陰陽師』と呼称する時とは異なる、切なくも、何かを堪えるようなナギの囁きが少女の名を紡ぐ。
けれどそれは、○○には届かない。
傍にいる式神の少女が、
「ナギ?」
どうかしたの?と不思議そうに訊ねてきたが、
「何でもない」
そう言って、ナギは彼女を置いて歩き出した。
(俺…避けられてる……)
今でも普通に会話もするし、傍に寄っても、別に嫌がられたりはしない。
でも、前とは明らかに違うことを、ナギはすぐに察知していた。