第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-
少なくとも、○○も、そして地獄鬼もそう思った。
だからこそ。
「なめんなぁっ!」
地獄鬼は薙ぎ払うように式神達の攻撃をかわし、にた、と口の端を歪めながら、○○に特大の火球を放つ。
式神も何も、陰陽師があればこそ。
それが消えれば、この邪魔な攻撃も茶番も終わる。
一点に狙いを定めた渾身の業火は式神達の攻撃を掻い潜り、羅刹鬼が施した防御を突き破る。
「んなもん、俺に通じるかってんだよ!」
勝利を確信した地獄鬼が、笑い混じりに咆哮する。
炎球は、式神を召喚する為に動けない○○を直撃する…はずだった、が。
どしゅっ!
羅刹鬼の片腕が焼け落ちて、業火が消失する。
「なに!?」
予想外の展開に地獄鬼が目を剥く間もなく、残された腕から繰り出された羅刹鬼の一閃によって、地獄鬼は敗北した。
こうして、○○は強大な力を持つ鬼を、また一人、式に迎えるに至った。
しかし。
「羅刹鬼さん、腕…腕が……っ」
ごめんなさいと泣きじゃくる○○を強引に引きずって…というよりは担ぎ上げてやってきたのは、つい先刻まで戦闘があったとは思えないほどのんびりとした、一面の草原。
己以外の式神を全て引っ込めろ、という羅刹鬼の言葉に、珍しくも素直に(いつもはこうはいかない)応じた○○を草の上に座らせた羅刹鬼は、そのままごろり、と、○○の膝に寝転んだ。
「……ぇっ!?」
「うるさい。俺は疲れている」
「………ぅ」
疲労というなら○○も同じであろうとは、羅刹鬼も分かってはいたのだが、どうしても、こんな風にしか言えなかった。
何より、片腕を失くした今の己の言うことを、恐らく○○が無下にしないことは分かり切っていて。