第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
掠めるようなそれに、○○が首を竦めると、
「怖いか?」
ひよこ豆は、問い、
「へいき…です」
○○は気丈に首を振りながら、答えて。
ひよこ豆の唇が掠めるようにしながら、そんな少女の頬に、瞼に…やがては首筋へと落とされた。
その度に、ふるり、と震える身体をあやすように、彼の腕はいつの間にかしっかりと○○を囲うように抱きしめていた。
嫌か、と問われ、怖いか…と訊ねられても。
○○は大丈夫と小さく答え、やがてはそれもできないように首を振ることで意思を示す。
「私は…お前を脅かしたくない」
だから…と、ひよこ豆は更に懐へと引き寄せた少女の耳朶に吹き込んでいく。
「嫌であるなら。恐ろしければ、私を突き放せ」
今なら、離してやれる。
ここから、帰してやれる……。
そんな男の、最後の堰など知らぬまま、○○はまた首を振った。
「やじゃ…な……ぃ……」
真っ赤な頬で告げられるそれに、男は己を抑え込むことを放棄した。
魔滅一族の長老と、陰陽師……。
そんな互いの立場も、身の上も関わりなく。
ひよこ豆という名すらも今はかなぐり捨て、一人の男として、愛しい少女の全てを欲する夜が、始まろうとしていた。
「○○…お前には…私の全てを晒そう」
「せ、ん…せ……っ、ん」
「全てを…教えよう……」
「ぁ…ふぁ…っ」
接吻をされ、初めは閉じていた唇を愛撫するように舐められれば、堪らなくなった少女は喘ぐように薄く唇を開いてしまう。
途端、男の熱いぬめりが少女の歯列を撫でるように蠢き、○○は自らの足でその場に立つことさえままならなくなっていく。
相手に触れて…確かめるのは、そもそも○○だったはずなのに。
いつの間にかすり替わってしまった展開に、しかしもはや少女の脳裏をそれが掠めることはなかった。