第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
遠ざかり、やがて消えていく珈琲の気配を感じながら、ひよこ豆は○○の髪を撫でた。
途端、びくり、と○○が震える。
怯えでなく、嫌悪でなく。
でも、それが何か分からないといった○○のいとけなさが、ひよこ豆には愛しくてならない。
「こうされるのは、嫌か?」
「いやじゃ…ない…で、す……」
「それは良かった。お前も、確かめるが良い」
「え?」
「我が身が、本当に老いておらぬかを……」
「でも、そんなの……」
容姿が若いのは以前からのことだ。
こうして眺めたところで、改めて知れることなどありはしない。
そう訴えて○○が首を振れば、ひよこ豆は艶美に微笑んだ。
「見目が若くとも、内が老いていては叶わぬこともある……」
「???」
理解できていないらしい○○の幼さ…純真さに、またもひよこ豆は微笑する。
齢数千という老いが事実なら(そもそもそれだけの時を生きていることさえ本来はありえぬ話だが)、夜更けて起きてはいられまい。
あるいは、昼の日中ですら、老いた身で動くことはままならぬかもしれぬ。
ゆえに毎夜早寝をせねば身体が持たぬ…とは、己の老いを示す為の、いわば偽装だ。
だが、事実は……。
「夜更けといわず…朝までも、共に過ごすことができよう」
老いていると偽ったものではない、若さを留めた真実の己であればこそ。
「確かめて…みるか?」
「え…ぁっ」
ひよこ豆…いや、今や一人の男と化そうとしている彼は、そう言いながら○○の手を、自らの胸元に誘導した。
「老いた鼓動か…確かめるか?」
「せん…せ……?」
すっ、と○○の上に影が差し、額にひよこ豆の唇が触れる。