第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
今日までは、それも悟った上で送り出してきたが。
「帰るのか?」
「え…だって……」
「私は老いておらぬと言ったが」
「そ…です、けど」
「私を疑っているのか?」
「そ、そういうわけじゃ……っ。けど、何で私に……」
そんな大事なことを…と小声で継ぐ少女の問いは、確かに頷ける。
どうして今なのか。
どうして○○に教えたのか……。
だがそれを答えれば、己の想いを吐露するようなものだということを、ひよこ豆は自覚している。
それでも…その上で、自分は告げたのだから。
「知りたいか?」
「先生?」
「お前にならば……」
「せん……っ」
そっ、と、再び頬を撫でられて、○○の肌が泡立った。
外には、珈琲がいる。
残るか、帰るか。
選択権は、少女の手にある。
「ここに残り…知るか?」
全てを……。
ある種、誘惑するかのような問いに、しかし○○は疑うことなく、こく、と頷く。
と、同時、ひよこ豆は外に声放った。
「○○ならば、とうに帰ったぞ」
「え?本当ですか!?ちぇっ」
残念そうな気配に、ひよこ豆はほくそ笑む。
珈琲の気配が近づくのを察して、ひよこ豆は庵から○○の気配を消すべく、そうと知れぬよういち早く術を施していた。
その上で○○は帰ったと告げられれば、珈琲が信じるのは必然だ。