第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
だが、この秘術は同族すらも極一部しか知らぬ秘め事であった為、ひよこ豆は、見目こそ若くあっても、中身は時を刻み、とうに老いているのだと一族の者らを偽らざるを得なかった。
もっとも……。
「大豆は気づいているようだがな」
あの勘の鋭い一族の長は、何を告げずとも、恐らくは勘づいている。
そしてその上で黙していると、ひよこ豆は確信していた。
一族内でのそうした機微は○○には分からなかったが、つまるところ、ひよこ豆は見かけ通りの若者であった、と、つまりそういうことになる…らしい。
「秘術を施したのは、私が今の大豆と同じ年の頃だったか……。あまりにも遠い昔で、もはや正確には分からぬが」
見た目は若く、中身は老人。
そう教えられたことは、嘘だった。
唐突に突きつけられた真実に、○○が怒りを覚えることなどなかったが。
「どうして…教えてくれたんですか?」
ずっと隠していたのに。
一族にすら、秘めているのに。
どうして…今……?
困惑を浮かべる少女の頬は、心なしかまだ赤い。
ふと、ひよこ豆がその頬に手を伸ばした…その時。
「おい、○○。まだ長老の邪魔してんのか?」
もう帰れよ、送ってやるから…という声が外から聞こえて、ひよこ豆は刹那手を止めた…が。
する…っ。
「………っ!?」
頬を撫でられ、○○の頬に新たな熱が灯った。
(珈琲か……)
あんまり長老に迷惑かけんなよ、と、更に声が追い打ちをかけてくるが、あの男…いや、彼のみならず、○○が来ていると、こうして同じように現れる一族の男たちの魂胆は知れている。
長老に迷惑だから…と称した上で、○○を送るという名目を得ているのだ。
毎度現れる人物が異なるのは、その役を担うべく、恐らくは何らかの形で毎回競い、あるいは争っては決着をつけているのだろう。