第5章 蕩ける華-地獄鬼-
だが、それでも○○はもがく。
それが○○という少女だ。
と、ややして。
「……悪かった」
ぽつり、と洩らす地獄鬼からは、先刻の怒気も殺気も、失せていた。
「俺はお前が欲しいだけだ」
「………!?」
「俺のものにしたい」
力づくでなく、いつの間にか包み込むような抱擁に包まれながら、それでも○○は返す言葉が見つからなかった。
(な、に? いま、このひと、なんて……?)
何を言われているのか理解できないほど、○○は混乱していた。
それに、地獄鬼のことは確かに嫌いじゃないが、畜生鬼を筆頭(?)に、鬼は淫蕩な存在であると、陰陽師の修行でも教えられた。
とはいえ、よもや自分などに触手を伸ばすまいと高を括っていたのだが。
つまるところ、自分も一応“女”だから、というところか。
でもそんなのは、○○にすれば、当たり前だがお断りだ。
たまたま身近にいる、それが女だからって、冗談じゃない。
せっかく、分かり合えるようになってきたと思っていたのに。
そう感じられることが、嬉しかったのに……。
(私が女だっていうだけで……!?)
ぐるぐる混乱する頭で、それでも必死に考えを巡らせた○○は、押しのけられない彼に、それでも必死に腕を突っ張った。
「こういうことは、よそでやってよ」
どうせ今までだって、いろんな相手とそうしてきたに違いないのだ。
その矛先を、戯れにしろ、自分になど向けないで欲しい。
○○の言葉には、暗にそうした意図も込められていて、そしてそれは、地獄鬼に伝わったらしかった。